2013-12-20

何だか大変なことになってる「本物のサンタって何?サンタってどこに住んでるの?」な問題



■サンタクロースはどこに住んでるのか?




■「本物のサンタ」「公認サンタ」って何なのか?


サンタが住んでいる場所はどこなのか?

フィンランド?グリーンランド?北極?いやいやノルウェーって説もありますけど。スウェーデンもサンタの故郷・住む場所だそうです。もうよく分からない。

でも、サンタの大元のモデルは、ギリシア人の町ミュラ(現在のトルコ)の司教、聖ニコラウスでは?ならトルコが故郷じゃないの?そこから引っ越した設定ならば、それはいつ?なぜ?

そして、「本物のサンタクロース」「公認サンタクロース」という存在。各国が「サンタは我が国にいる」と言っている状況での“公認・非公認”とは?「フィンランドから本物のサンタクロースが…」ってよく聞きますけど、“本物”とか“偽物”って何なのでしょうか?もうすぐクリスマスなので、ちょっと調べてみました。



本物/公認のサンタとは?



まずは「本物の/公認のサンタ」とは何か?
という問題に関して、近年起こっているややこしい問題がこちら。ツイッターより。



まずはフィンランドの駐日大使館のツイート。次にあるのはパラダイス山元さんのツイート。パラダイス山元さんは、日本で唯一の、グリーンランド国際サンタクロース協会公認のサンタクロースだそうです。どうやら日本に来ているフィンランドのサンタクロースは、だいぶ胡散臭い人ということの様子?



つまり、存在していないはずの「フィンランド政府公認サンタ」なる人が、日本人を騙して金儲けをしている、と。で、そのフィンランドのサンタさんは、今年も日本で精力的に活動なされているようで、ニュースを検索するとその活動がたくさん出てくるわけです。

う~ん…?

このサンタさん、記事によっては「フィンランドのサンタクロース財団公認」とか、「ラップランド州公認」と書いてありますね。でも現在はラップランド「州」はもう無くなっているそうなので、つまり、彼は政府公認ではなく、また、かつてラップランド州だった場所にある財団が「公認」しているサンタさん、という事のようです。


パラダイス山元さんの「肩書き変えて」のツイートはこれを指していると。もうなんだろうな「公認」って…。


「公認」という存在。
パラダイス山元さんはなにも「うちが唯一本物のサンタ認定機関だ」ということを言っているわけではないですし、問題はあくまで「偽装」と「金儲け」にあるようです。

ではグリーンランドの国際協会の「公認」とは何か?フィンランドのサンタは故意に日本をカモにしているのか?ボタンの掛け違いの可能性もあるのでは?という問題ですが、これはもうちょっと調べてみる必要がありそうです。

※こちらもご参考に
パラダイス山元氏「フィンランド公認サンタは、らしくない」
http://www.excite.co.jp/News/column_g/20121219/Postseven_161096.html


サンタクロースの本場とは?



そしてもうひとつの疑問。“サンタクロースの本場”とはどこなのか?何なのか?何をもってサンタクロースの故郷・住む場所としているのか?なぜ各国にサンタの住所があるのか?“本物のサンタ”の定義も、ここから探れそうな気がします。

まずこの件に関しては、ネットのニュースを調べてみるだけでも、これだけの「サンタ本場争い」が。う~ん…。

※詳細は後述してありますが、この団体の思惑はいくらなんでもやり過ぎだと思います。
サンタクロースのブランド化、フィンランドの試み
http://www.afpbb.com/articles/-/3005597

サンタクロースの仲間にはスパイもいる!? フィンたんに聞くフィンランドの伝統的なクリスマスとは
http://www.huffingtonpost.jp/2013/11/24/fintan-santa-claus-christmas_n_4334382.html
(※サンタクロースはフィンランドにいる、と書かれた記事です。)

「サンタクロースはグリーンランドに住んでいます!」 デンマーク大使館のイェンセンさんに聞く世界サンタクロース会議とは
http://www.huffingtonpost.jp/2013/12/17/denmark-santa-claus-christmas_n_4462503.html


「サンタの原型はドイツ」ユネスコ無形文化遺産に申請
http://www.afpbb.com/articles/-/3005309

「サンタクロースはカナダ人」北極圏領有権を競うカナダ政府
http://www.afpbb.com/articles/-/3004876


そして、国立国会図書館が公開しているレファレンス協同データベースによると、クリスマスやサンタクロース関係の書物にある「サンタの住んでいる場所」はこのように書いてあったそうです。

『クリスマスはスゴイ!!』クレヨンハウス 1993年
p.13サンタクロース
「クリスマスにプレゼントをくれるおじいさんとして親しまれていますが、もともとは、3世紀に実在した聖ニコラスが、サンタクロースと呼ばれるようになったといわれています。」
p.12サンタクロース村
「フィンランドのロバニエミから北へ8km行くと、北極圏に入ります。ここにはサンタクロース村があり、一年中サンタクロースが仕事をしています。(中略)サンタクロースはコルバトゥントゥリという山に住んでいます。(中略)サンタクロースは1968年、ロバニエミにサンタクロース村を作り、ここで仕事をするようになったのです。」

『サンタの博物誌』葛岡博/絵 増田竜治/文 アートデイズ 1995年
p.50サンタクロースについて
「かつては北極のノースポール付近に住んでいた彼が、住み慣れた地を離れこの地に移り住んだのは1920年代初頭のこと。」
プロフィール 
「現住所 フィンランド コルバトゥントゥリ SF9999」

『サンタクロースと小人たち』マウリ=クンナス/作 稲垣美晴/訳 偕成社 1982年
p.2より「オーロラのみえる国フィンランドのとおい北のはずれに、コルバトントリという山がそびえています。ふもとには、工場や倉庫や飛行場のあるとてもふしぎな村があります。」
p.4より「ここには、子どもたちの大すきな白いひげのおじいさんサンタクロースが、なん百人もの小人やトナカイにかこまれてくらしているのです。」

『辞書びきえほん世界地図 改訂新版』陰山英男/監修 ひかりのくに 2017年
p.123フィンランド
「トナカイが放牧され、サンタクロース村があることで有名です。」

フィンランドとは明言していない資料もあり。
『だれも知らないサンタの秘密』アラン・スノウ/作 三辺律子/訳 あすなろ書房 2005年
p.6サンタクロースは、どこに住んでいるの?
「サンタさんの家は北極にあります。」

『サンタのサムタンさん』溝江玲子/作 亀田佳江/絵 東京経済 1994年
p.1より「サンタクロースが住んでいるところは、とっても遠いところです。北でもいっとう寒いところで、となかいたちとくらしているのです。」

2023.11追記
グリーンランドとしている資料もあり
『サンタクロース公式ブック』パラダイス山元/著 監修 小学館 2007年
p.87
「ではサンタクロースは、今どこに住んでいるのでしょう?(中略)それは北極に近いグリーンランド。ニッセルと呼ばれるお手伝いの妖精たちと共に移り住んでいたのです。」


こう見ると、フィンランド説が多いようですが…う~ん…。
…この他、スウェーデンもサンタの住処に名乗りを上げていますし、ノルウェーも住処と言っています。日本ではフィンランドが本場、みたいな空気が流れていますが、今まで見てきたように、どうも疑ってみる必要がある。


というわけで、まずはサンタクロースの起源を軽くたどってみます。わりと有名な話なので、サクッと紹介。


■サンタの起源は、守護聖人の聖ニコラウス


4世紀の初め頃、小アジア半島、現在のトルコにあたる場所に、聖ニコラウスというカトリックの司教が住んでいました。彼はその生涯を慈善事業に尽くし、人一倍の子ども好きとしても知られていました。そんな彼は子どもの守護聖人として崇められるようになり、後に伝説となり、貧しい子どもたちにプレゼントを贈るという彼の行動がそのまま習慣化、発展していったのがクリスマス・プレゼントの始まりだと言われています。

彼がサンタクロースの起源だという説は有名な話ではありますが、実際はこの聖ニコラウスにいろいろな要素が習合しているのが現在の“サンタクロース”です。

聖ニコラウスの伝説は、時間をかけてヨーロッパ各国へさまざまなイメージとともに語り伝えられていきました。聖ニコラウスの祭り自体、かなり早い段階からヴォーダン(オーディン)やトール、クランプスなどの異教の神々の影響が深く入り込んでいたようです。


こちらがクランプス、怖すぎ
 


欧州各国のそれぞれにサンタの住まいがあるのは、各国地方に伝わる伝承・神々とサンタが融合したためとも言えます。サンタの服が赤いのも同様で、様々な要素が組み合わさった結果、後述するコカ・コーラのサンタクロースに結実したものであり、一概に「これが理由」と言えるものはないようです。

■オランダの「シンタークラウス」がアメリカへ

いまに繋がるサンタクロースのイメージは、中世のオランダが大きく影響を与えています。当時のオランダでは、サンタクロースではなく“シンタークラウス”と呼ばれていて、オランダ人の思い描いたシンタークラウスは、パイプをくわえ、煙突から家の中に入ってきていたそうです。

サンタクロースの伝説は、聖ニコラウスが生きた時代から1000年以上の時を経た17世紀になって、オランダ人の入植者たちとともにアメリカへ渡りました。先ほど述べた“シンタークラウス”を英語風に読むと“サンタクロース”になります。こうして、“サンタクロース”(Santa Claus)という言葉が誕生したと言われています。

■“サンタクロース”はアメリカが生み出した

オランダ移民のイメージしたシンタークラウスは、小説家のワシントン・アーヴィングに受け継がれ、そのイメージはクレメント・C・ムーアの有名な詩に影響を与えます。

1822年、アメリカの詩人クレメント・C・ムーアは自身の作品のなかで「サンタクロース(聖ニコラス)は大きな顔で丸い小さなおなか、元気いっぱいで陽気な、小さな妖精の太っちょおじさん」だと表現しています。その後100年に渡り、画家たちはこの詩からサンタクロースの姿を着想して思い思いに描いていきます。

その姿の多くは小型の妖精のように描かれていましたが、太っていたり、痩せていたり、青や緑、あるいは白い衣装を着ていたりと、統一されたイメージはありませんでした。これほど有名なキャラクターであるにもかかわらず、人々が思い描く確固たる共通イメージもないままに1500年以上の時が経っていたのです。

1886年、アメリカの政治風刺画家ナストが、サンタの暮らしぶりを描きます。この時にサンタクロースの住まいは「どの国のものでもない場所」として北極になりました。その後、ロックウェルやライエンデッカーといった人気画家がそのサンタ像を発展・引き継いでいくと、サンタ像は徐々に定着していきます。


ナストの描いたサンタ


ロックウェル、ライエンデッカーの描いたサンタ像は、その後サンドブロムがコカコーラのために描いたサンタに引き継がれ、サンドブロムのサンタ像は広告などで大衆へ広まり、20世紀になってヨーロッパへ一気に伝わります。

ロックウェルの描いたサンタ

ライエンデッカーの描いたサンタ



■現在のサンタ像を広めたのはコカ・コーラ

1930年代に入り、コカ・コーラ社は、より温かみのある人間的なサンタクロースをつくり出し、それをクリスマス・キャンペーンに起用しようと考えました。そして、その創作を1899年生まれ、シカゴ育ちのスウェーデン系アメリカ人であるハッドン・サンドブロムに依頼します。

そして1931年、サンドブロムの描いた「コカ・コーラサンタクロース」が『サタデー・イブニング・ポスト』の雑誌広告に登場。彼の描いたサンタ像は、コカ・コーラが世界に広まるのとともに国境を越えて広がっていき、現在イメージされる「サンタクロース」の姿が世界中の人々に知られるようになったのです。


コカ・コーラを持つハッドン・サンドブロムのサンタ
日本コカ・コーラ公式サイト



以上がサンタクロース成立の、かなり端折った経緯です。

こうしてみると分かる通り、どこかの国が“サンタの本場である”と呼べるだけの理由は見当たりません。フィンランドの場合も、19世紀後半、アメリカの生み出したサンタクロースが入ってきているそうですから、他の国に先行しているわけではないようです。

ではどうして北極に住んでいたはずのサンタが「フィンランドに住んでいる」と言われだしたのかというと、1920年代にフィンランドが自ら宣言し、それを継続して言い続けているからであり、そこには領土に関する政治的な問題が大きく絡んでいるそうです。(1925年のアメリカorフィンランドの新聞で「北極からフィンランドに移住した」という記事を掲載したのが最初という話もあるのですが、ソース未確認。)

これはもちろんフィンランドだけでなく、他の故郷・本場を名乗っている国にも言えることです。サンタ成立の元ネタのひとつになっている妖精や神がいるので本場と名乗った、もしくは自国にいる妖精・神がサンタっぽいので、合体させてしまった、など。

つまり、サンタクロースの“本場”なんてものは無いと言えるのではないでしょうか。もっと言えば、現在のサンタクロース像を生み出したのはアメリカなのだから、アメリカが本場で、本物のサンタがいる国でもいいんじゃないの?と思うのですが。

そうでないなら、どの国もサンタの住処として正解である、そして“本物”など元々いないと考えても良いと思います。

幸い、年々サンタも複数いることになりつつあるようですし、「悪用する者以外はみんな手を取り合って」といった具合に、公認問題、オリジナル争いは早めに解決して欲しいところです。




以上の話は、様々なサイト、書籍を参考にしましたが、特に参考になった資料は書籍「サンタクロースの大旅行 (岩波新書)」です。この本かなり重宝しております。でも今では入手がしづらいようで、残念。



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